曼珠沙華腰巻の美術世界
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美術:内藤修子展「昭和哀燐ノ紅怨」 墓碑の周りを漂う死者の群れ 福岡
毎日新聞 2015年10月25日 西部朝刊
<日曜カルチャー>
会場の真ん中に赤い十字架が立っている。高さは約2・6メートルの天井に届く。床には「血縁や血の流れ」を象徴する紅白の布が縄状になって渦を巻き、十字架の足元を包み込む。9体の女性の人形は釣り用のテグスでつるされ、宙に浮かんで見える。内藤修子の新作インスタレーション「昭和哀燐ノ紅怨(あいりんのくおん)」は、墓碑(十字架)の周りを漂う死者(人形)の群れを想起させる。
1949年生まれ、長崎市在住。腰巻きや十字架をモチーフに、女性性、長崎の歴史を落とし込み、古い時代を感じさせる現代美術表現に取り組んできた。本作にもその姿勢は貫かれている。
幕末に長崎・浦上で起きたキリスト教徒弾圧事件「浦上三番崩れ」、東南アジアなどに身売りされた女性、からゆきさんたちの寄進によって明治時代末、島原に建てられた塔「天如(てんにょ)塔」の物語を下敷きにしているのだという。
「どちらも大昔の話ではないのです」。地元でも顧みられる機会の少ない史実に光を当て、現代人に問題を意識させる試み。つらい運命を背負いながら、生きることを余儀なくされた者たちへの鎮魂のメッセージが色濃くにじむ。人形たちは半裸に腰巻き姿。顔に浮かぶ穏やかな笑みは、生前の苦痛から解放された喜びの証しなのか。それとも、どんな逆境下でもくじけない強じんな精神の表れなのか。悲しみと休息の気配が交じり合い、赤を基調とした情念に彩られた空間には永遠の時が刻まれている。
11月1日まで(会期中無休)。福岡市中央区天神3のアートスペース貘(092・781・7597)。【渡辺亮一】
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